電話相談 (10時〜16時)はこちらから 03-3370-4078

セミナーのお申し込み

登進研公式サイトトップ > セミナーのご案内 > 登進研バックアップセミナー45演内容

セミナーのご案内

登進研バックアップセミナー45・講演内容

不登校―失敗しないための進路選択

失敗しないための進路選択
講師 小林正幸(東京学芸大学教職大学院教授)

 今日の講演のテーマは「失敗しないための進路選択」ですが、ここに参加されたみなさんにも人生のつまずきというか、あのときは大変だったなという時期があるかと思います。そのつまずきは、あとで振り返ると、「もう二度とあんな体験はしたくない」と思う一方で、「あの体験があるから今がある」と感じることもあるのではないでしょうか。

 そう考えると、人生、何が失敗で、何が成功なのかという判断は非常に難しいものです。そして、私は失敗はいくらしてもいいと思っています。大切なのは、そのあとどうするか、です。

学校が子どもに合わない

 子どもがなぜ不登校になるかというと、それはおおむね「学校が嫌だから」です。親の育て方なんてあまり関係ありません。不登校とは、要するに「子どもが学校に合わない」ことであり、逆にいえば、「学校が子どもに合わない」ということです。

 不登校経験者2万6000人を対象とした追跡調査(中3で不登校だった子どもたちの5年後を追いかけた調査、文部科学省、2013年)では、不登校経験者の約9割が、不登校の「きっかけ」を思い出すことができると回答しています。きっかけから5年経過しても思い出せるほど、それは不快な体験なのです。

 きっかけの第1位は「友人関係」で約50%。2位が「学業の不振」、3位が「教師との関係」。これが不登校の3大理由です。次いで、4位「部活動」、5位「学校が合わない」というように、ここまですべて学校が関係しています。親との関係など「家庭の問題」は7位で、10%未満に過ぎません。

1. 不登校はなぜ続くのか

 たとえば、友人とのトラブルがきっかけだった場合、友人とは仲直りしたのに、学校に行けないというケースは少なくありません。きっかけとなった友人との問題は解決したのに、なぜ不登校が続くのでしょうか。
 それは、きっかけとは別に、新たに不登校を継続させる要因が発生するからです。この継続要因について、以下、①感情面、②行動面、③思考面の3つの視点から説明したいと思います。

①感情面でどんなことが起こるのか

 ある子どもがクラスの友だちとの関係のなかでとても嫌な思いをしたとします。そして、翌朝、学校に行こうかどうしようか迷います。そのとき、嫌な思いをした場面を思い浮かべると同時に、休んだら心配するかもしれない担任の先生のことや、密かに思いを寄せている女の子のことなども思い浮かべます。

 最終的に嫌な気持ちのほうが勝って、学校を休むという選択をすると、プラスの方向で思い浮かべていたこと(担任の先生や好きな女の子のこと)や、好きでも嫌いでもないこと(学校の建物など)も、すべてマイナスの方向に流れ込んできてしまいます。不登校の子どもは、毎朝、このような感情をくり返し味わっているのです。

 毎朝、行くか行かないか葛藤し、学校に行かないことを選択する。そのくり返しのなかで、不快な場面を何度も何度も思い出すことによって、不快な場面が友だちとの関係だけでなく、学校全体に広がり、不快感も強まっていきます。
 

くり返し安心感を与えることで、不安を取り除く

 嫌なことを想像したときに、いちばん起こりやすい感情は「不安」です。不安が起こったときに、それとは正反対の「安心」が心に広がっていくと、学校に対する不快感は減っていきます。子どもが思い浮かべる嫌なこと(不安感)を上回るほどの安心感をくり返し与えつづけることで、学校に対する嫌なイメージがだんだん消えていくのです。

 人間は、話をじっくり聞いてもらい、自分のありのままを受けとめてもらえると安心できます。その子のつらい気持ちに耳を傾け、「つらかったね」「腹が立ったよね」などと共感(受容)のメッセージを伝え、不快な場面のイメージをくり返し消していくことが、学校に対する嫌なイメージを取り払っていくことにつながります。

 よく「登校刺激を与えないように」といわれますが、子どもが学校のことを考えながら嫌なイメージを思い浮かべたときに安心感を与えることに意味があるのであって、学校のことをまったく考えないかたちで、ただ安心感を与えても意味がありません。学校のことを話題にして脅威を覚えるような場合は避けたほうがいいと思いますが、子どもが抵抗感を覚えない程度なら学校のことを話題にしてもかまいませんし、それで不安を感じるようであれば安心感を与えることが大切だということです。
 以上が、不安を取り除いていく感情面での対応です。

②行動面でどんなことが起こるのか

 子どもの気持ちのなかに学校に対する不安が強まれば強まるほど、不快感が広がり、学校を避けるようになります。要するに、学校に行かなくなるわけです。これは動物的な自己防衛本能のひとつであり、痛い目にあったところには近づかない、同じ間違いはおかさないという知恵でもあります。

 嫌なことがあったので「学校に行かない」という選択をすると、その嫌なことに見合うだけの安心感・安堵感が得られます。つらさが大きければ大きいほど、「行かない」という選択によって得られる安心感は大きくなるわけです。この大きな安心感・安堵感が、再び学校に行こうというときに「行きにくさ」を強めてしまうというメカニズムがあります。行かない(行けない)ことによって得られた安心感・安堵感が大きいほど、「行きにくさ」を強めることになるのです。

今日は休もうと決めると、一挙に気持ちが楽になる

 不登校の初期では、ほとんどの子どもたちが毎朝、行くか行くまいかギリギリまで迷っていますから、朝はいつも憂鬱です。しかし、登校時間をある程度過ぎて、「今日はもう行くのは無理だから休もう」と決めると、ほどけたように気持ちが楽になります。この楽になった気持ちが、翌日また学校に行こうという行動を萎えさせるようにはたらいてしまうのです。
 以上のことが、行動面として毎日起きてきます。

③思考面でどんなことが起こるのか

 こうして感情面では学校に対する不快な思いが高まっていき、行動面では学校に行こうと思っても行けない自分を強く意識するようになります。
 そうなると、「学校に行かなければならない」「学校に行ったほうがよい」という意思が、感情面と行動面の悪化によって、負け続けることになります。子どもたちは、連日、自分の意思(行かなければならない)どおりに動くことができず、失敗し続けている(でも行けない)ことになりますから、意欲を失い、憂鬱な感情を抱くようになります。

 このような感情面、行動面、思考面のはたらきによって、一度、不登校になり、学校や仕事など社会的な場にどこにも所属しないで年齢を重ねていくと、その状態から抜け出しにくくなるというメカニズムが新たに発生します。そのために不登校という状態が続きやすくなるのです。

2. コーピング・スキルを育むために

 先の追跡調査では、不登校経験者の約5割は、20歳になっても人間関係に不安を感じていることがわかっています。これは、本人のせいでも、親御さんのせいでもありません。学校に行こうと思い続けながら、結果として、毎日毎日それが報われなかったことでダメージを受けた結果なのです。
 では、どうしたらいいのかということで、具体的な支援の方法について、進路選択の問題とからめてお話ししたいと思います。

コーピング・スキルとは?

 コーピング・スキルとは、ストレスに対処する技術のことです。
 進路を選択することは、普通の中学生にとっても一大事ですから、まして不登校ともなれば、そのストレスは半端ではありません。
 そうしたストレスフルな状況のなかでも頑張れる力、ストレスに立ち向かっていく力を、不登校のあいだにどれだけ高めておくかが非常に重要です。最終的にどんな進路を選ぶにせよ、嫌なことや苦しいことは必ずあるわけで、そのときにストレスに対応できる力が大いに役に立ちます。

 子どものストレス対処法としては、次の2つのスキルがあるといいと思います。
 ひとつは、人とつきあっていく力。これを「ソーシャル・スキル」といいます。もうひとつは「セルフ・コントロール」。これは、遠い目標に向かって自分がしたくないことをあえてやったり、したいことをあえてやらない力のことで、頑張る力や耐える力の元になるものです。

①ソーシャル・スキル…人とつきあっていく力

 なぜ、この2つの力があったほうがいいかというと、まず「ソーシャル・スキル」のほうでは、人は嫌なことがあったとき、とくに人間関係で嫌なことがあったときは、人間関係のなかで癒されたほうがいいからです。
 たとえば、同級生とすごく嫌なことがあっても、塾では人気者だったり、部活の仲間といい関係をもっていれば、なんとかやっていける。つまり、クラスではダメだけれど、ここではダメじゃないという場所があると、「自分は完全にダメだ」という状況にはならないので、ストレスを感じてもなんとかやっていけるということです。

 ところが人間関係の輪が狭いと、そこでトラブルが起きた場合、どこにも居場所がなくなって、「仲間とケンカになったのは、自分の性格が悪いから」「自分がダメだから」と思ってしまいがちです。そうなると、人間関係で負った傷からなかなか抜け出せないということになりかねません。

②セルフ・コントロール…頑張る力、耐える力

 もうひとつの「セルフ・コントロール」はどうやったら身につくかというと、まず、「頑張る力」は、うまくいった体験が多ければ多いほど頑張れるようになります。逆にいえば、不登校の子どもが、自分が学校に行っていないことを「失敗体験」と思えば思うほど頑張れなくなります。

 自転車の練習を思い浮かべてください。最初のうちはしょっちゅう転んで、あちこち傷だらけになって、毎日痛い思いばかりしています。でも、「自転車に乗る」という遠い目標のために、つらいことをあえてするわけです。それでも頑張れるのは、「昨日より今日は10メートル長く乗れた」とか「お母さんが手を離しても3メートル漕げた」とか、昨日に比べてここが伸びた!という実感があるからです。そういう成功体験がたくさんあればあるほど「自己評価」が上がり、評価が上がると人はさらに先に向かって進もうとするのです。

 一方、「耐える力」や「我慢する力」は、自分が頑張って我慢したときに「よく我慢したね」という「他者評価」をもらえないと、なかなか身につきません。
 トイレット・トレーニングがよい例です。「今日はおまるでちゃんとできた」と自己評価をして自ら前に進んでいく赤ちゃんはいません(笑)。お母さんという他者から「よくおしっこ我慢したね」「今日はおまるで上手におしっこできたね」「よくウンチを教えてくれたね」「えらいね」とくり返し評価されることで、「おまるでする」「トイレでする」という目標のために、今したいおしっこやウンチをあえて我慢する力が身についてくるわけです。

どこの学校に行くかという狭い目標よりも、将来を見据えた援助を

 「ソーシャル・スキル」と「セルフ・コントロール」は、社会で生きていくうえで非常に大事な力であり、この2つがパワーアップされていればいるほど社会生活もうまくいきます。
 進路選択にあたっては、どこの学校に行くかといった狭い目標ではなく、この2つのスキルを身につけるにはどうしたらいいかという視点から考えてほしい。それこそが、子どもの将来を見据えた親にできる援助だと思います。

3. コーピング・スキルからみた子どもの状況別援助方法

 ここからはコーピング・スキルを高めるための援助方法について、具体的にお話ししたいと思います。

①ソーシャル・スキルの視点から

●対人不安がみられる場合

 対人不安は、対人関係の場面で心地よい体験を積み重ね、「想像していたよりも大丈夫だった」という体験が重なることで消えていきます。基本的に、生活空間を広げること、抵抗感の少ない人や安心できる人と一緒にさまざまな体験をすること、が大切です。
 ただし、いじめられた体験や過去に対人的なひどい傷つきの体験があると、過去の記憶に圧倒されて、今、自分のなかにある不安を処理できず、極端に人が怖くなっている場合があります。そのような場合は、心理治療を受けたほうが先々の人生が楽になるかもしれません。

 過去のつらさについては、「つらさ」をできるだけ語らせ、「自分は悪くない」「つらくて苦しかったのは当然だ」「思い出しただけで腹が立つのも当たり前だ」と、そこで思い出される感情を肯定し、しっかりと受けとめる必要があります。

●対人関係づくりが下手な場合

 基本的には、上記の「対人不安がみられる場合」と同じですが、簡単なアルバイトやボランティアなどで、自分の人へのかかわりが誰かの役に立つという体験を重ねると、対人関係づくりの基本を学びやすいかもしれません。

●自分の気持ちを話さない場合

 人間はひどくつらい体験や嫌な体験をすると、自分を守るために“感じる”ことをやめてしまいます。しかし、その体験を乗り越えるためには、過去の記憶を思い出し、そのときの自分の感情を“感じきる”こと、そして、かかわる側がその感情をきちっと受けとめることが必要です。

 自分の感情を出さない(あるいは出せない)子どもの場合、その子の「考え」や「話す内容」以上に注目してほしいのが表情です。今、その子が何を感じているのかを表情からとらえ、たとえそれが否定的な感情であってもしっかりと理解し、それをかかわる側が言葉にして表現するようにします。
 たとえば、その子の表情から読み取れる感情を、「不満かな」「腹が立っちゃうね」「恥ずかしいね」「心配(不安)かな」「怖いかな」「憂鬱になっちゃうね」「つらいかな」「悲しいね」「寂しそうだよ」といった言葉にして伝え、さらに、その子が何を伝えたいのかを推測できれば、それも言葉にして出すようにしていきます。

 進路の話をもちかけてもなんの返事もしないときは、「学校の話は嫌かな」と聞いてみる。すると、その子の表情が少し変わるかもしれません。その表情をとらえて、「でも、大事だと思ってるんだよね」と言うと、かすかに首を振る。「ふーん。そうじゃないんだ」と言うと、ポロポロッと涙がこぼれる。「ああ、学校の話をすると悲しくなっちゃうんだね」というように、その子の感情をちゃんと言葉にして出してあげることが大切です。

 そして、「なんで悲しくなっちゃうんだろう」と聞くと、自分の気持ちを話しはじめることがあります。こうして、その子が抱えている「嫌だ」「不安だ」「怖い」といったネガティブな感情をきちんと感じられるようにしてあげて、かつ、「怖がっていいんだ」「怖くて当たり前なんだ」とその感情を肯定できるようにしてあげるわけです。
 「怖い」と言えない子には、こちらが「怖い」という言葉を与えてあげる。実は、この作業がいちばん大事かもしれません。

 今の子どもたちは、総じてネガティブな感情を表現することが苦手になっています。学校でも家庭でも、求められる子ども像はいつもニコニコ明るく元気な子です。「ネクラ」はダメで、「ネアカ」はいいという風潮がはびこっているために、子どもたちは自らの否定的な感情を無理やり押さえ込んで表に出さないようになってしまったのでしょう。

②セルフ・コントロールの視点から

 以下は、不登校になる前のお子さんの姿から考えてください。不登校というしんどい状況に陥ったら、誰でもわがままになったり無気力になったり自信を失います。そうではなく、もともとその子がどんな子だったかを考えてみてください。

●頑張りすぎる場合

 目標設定が高すぎることが問題です。子どもに何も動きがない段階から、「それでいいよ」「よく頑張っているね」「頑張りすぎだよ」「無理しなくていいからね」「考えすぎると疲れるよ」などの言葉かけを多くします。

 いちばん大事なのは、学校に行っていなくても「頑張っているね」と言ってあげることです。実際は家でゴロゴロしているだけだとしても、毎日、学校のことを考えて憂鬱になっているという状況は、ある種の頑張りといえるわけで、だから親に「学校に行ってなくても、毎日気持ちのうえで頑張っちゃってるんだよね」と言ってもらえると、子どもは救われた気持ちになります。

 教師が児童生徒にかかわる場合は、よく勉強を禁止したり、テストで手抜きをさせてわざと悪い点を取らせるようにしたりします。とくに先に歩き出そうとする場合は、「無理をするな」「失敗したっていいからね」と後ろにひっぱり続けます。

●頑張れない場合、自信がない場合

 先に述べたように、「頑張る力」や「努力する力」は、うまくいった体験や成功体験の多さと関係があります。逆に、失敗体験が多ければ、頑張る力や努力する力は損なわれますし、自信ももてません。

 人は、過去の自分と比較して、過去よりも向上した部分を自己評価できたときに、それを成功体験と感じます。それができて初めて、目標に向かって、さらに努力しようとする力が生まれます。
 親のかかわり方として必要なのは、前はできなかったことができるようになったり、以前より成長したことなど、小さな変化を見逃さず、その変化を本人に伝え、それを「よかった」と喜ぶことです。

●我慢する力、耐える力が弱い場合

 「我慢する力」や「耐える力」は、他者からどれだけ認められ、評価されたかということと関係があります。
 基本は、ほめること、認めることです。ほめることが見つからなければ、今その子がしていることで問題ではないことを、さりげなく「続けるようにしたらいいね」と伝え、後日それが続いていることをほめるようにして、ほめられるクセを本人につけさせるようにしていきます。

 たとえば、毎朝9時頃に起きる子に、何気なく、「9時に起きられればまあいいよね。それが続けられたらいいかもね」と言って、1週間後に「ずっーと毎日9時に起きてるよね。よく続いてるね。すごいね」とほめてあげると、本人は「え? たいしたことじゃないし…」とか言いながら、まんざらでもなかったりするわけです。

③進路選択のときに起こりがちな問題の視点から

 

●進路に関心を示さない場合

 基本的には、「自信のもてなさ」「頑張れなさ」があります。
 ただし、過去に頑張れた子どもの場合には、今は気持ちのうえで先々のことが考えられない状態なのかもしれません。そういう子を目の前に座らせて、進路についてどう思っているのかと問いつめても逆効果になりがちです。それよりも、今その子がひっかかっていること、不安や心配なことについて、ていねいに向き合うことが必要なのかもしれません。

●進路の話に拒絶反応を示す場合

 親の側が、強迫的な(そうならないと大変なことになり、絶対にそうしなければいけないという気持ちでいる)場合には、親の不安に反応して、進路の話を拒絶してしまう場合があります。
 感情は伝染します。実際に声に出して怒らなくても、胸の内に怒りをもっていると、「ああ、お母さんは怒っているな」と子どもは簡単に見抜きます。親が不安なときは、いくら隠そうとしても顔に「不安」と書いてあるようなもので、すぐにバレます。自分の感情は、放送局の放送のように外側に流れ出していると思ってください。

 子どもが不安なときに、親がそれに輪をかけて不安になっていたら、どんどん不安は高くなります。子どもが進路の話に拒絶反応を示すときには、まず、自分のなかに不安がないかどうか、そちらをチェックする必要があるでしょう。

 進路の選択は確かに一大事ですが、人間はけっこう“風に吹かれて”生きているものです。自分だって、そんなに子どもに誇れるような生き方をしてきたわけじゃないよな、とちょっと胸に手を当てて振り返ってみてください。
 子どもたちは、まだまだいくらでも取り戻しのきく年齢です。今後、人生を実際にやり直せる年齢なのです。「たくさん失敗しなさい」という心持ちで、進路の話ができればいいですね。

●プライドが高く、自分の学力にそぐわない進路を希望する場合

 本当の意味での自信がなく、誇れる自分が見当たらないために、「レベルの高い学校」という属性をプライドにして自分を保とうとしているのです。
 親としては、属性・所属・学歴などで人を評価することは慎み、「人としてどれほど気持ちがよい人か」といった別の尺度で人を眺め、そうした視点で語れるようになりたいものです。子ども自身に、学歴などで他人を評価するような言動がみられた場合には、親はその評価とは異なった視点で、その人を評価してみせることをくり返します。

 また、お子さんのよいところとして、「やさしさ」「可愛さ」「けなげさ」「真剣さ」などの性格の部分をほめ、人に対する評価基準をさまざまに広げる工夫が必要でしょう。

いろいろな生き方があり、いろいろなやり方がある

 このようにして進路選択のためのパワーアップをしながら、ついでに進路を話題として子どもの生きていく力を高めていけるといいなと思います。
 この子に足りないものは何か、どういう力をプラスしてあげたらもっと生きやすくなるか、それにはどんな援助が必要かというように、子どもがもっと生きやすくなるような生き方、あり方を考えていってほしい。
 もっと人とつきあえたらいいのにと思ったら、子どもと一緒に外の世界にどんどん出ていってください。そして、「ついでに、進路選択もうまくいくといいね」くらいの気持ちでいることが肝要です。

 幸い、今は選択肢がたくさんあります。4月を過ぎても入学できるところはまだまだありますし、言い方は悪いですが、「抜け道」はたくさんある。いくらだってチャンスはあるんです。かりに今年度を逃したとしても、長い人生で一年くらいの道草なんてどうってことありません。一年のあいだにバイクの免許でも取れば、配達のアルバイトができます。それがその子にとっての大きな自信になるかもしれません。

 生きていくための手がかり、現在の状況から立ち上がる手段はいくらでもある。今は絶望的な気分でいるかもしれないけど、人生そう悲観したものではありません。
 親や学校の先生ができることは、いろんな生き方があって、いろんなやり方があるんだよ。これが正しいとか、これが一般的というものなんてないんだよ。そういうことを教えてあげることではないでしょうか。

 どこの大学を出たとか、どこの会社に入ったとか、そんなことは人生のなかでたいしたことじゃないんだということ。もし先輩であるわれわれが、子どもたちに伝えられることがあるとしたら、こんなことくらいかなと思います。

ページの先頭へ