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登進研バックアップセミナー53・講演内容

不登校―この時期、動き出せない子どもへの対応

長谷川啓三

講師:長谷川啓三(東北大学大学院教授)

◆問題と解決のあいだの悪循環

この時期(2月初旬)になると、「まわりの子どもたちは進路のことを考えはじめているのに、うちの子はまったく見向きもしないので、イライラする」というお母さんお父さん多いのではないでしょうか。

先ほどの寸劇(講演の前に行った、不登校の子どもと両親とのあいだに起こりがちなトラブルを再現した寸劇)で演じられたストーリーを例にとると、進学をひかえた中学3年の娘さんが、まったく勉強をしないという状況があるわけです。そのような場合、人間の体には風邪などをひいたときに、それを治そうとするはたらきがありますが、家族にも同じようなはたらきがあり、目の前の問題について、必ず家族で何とかしようとします。
寸劇のなかでは、まず、お母さんが「学校に行きなさい」「勉強をしなさい」と言いましたね。次に、お父さんがお母さんに頼まれて、娘さんが学校に行くように説得します。そのとき、お父さんは「人間というのは、ちゃんと働いたり、苦しいこともがまんして生きているんだから、好きなことばかりやっていてもダメなんだ。お父さんがどんな気持ちで働いているのかわかっているのか!」と怒りが爆発してしまいます。すると、お母さんがあいだに入って、「そんな言い方はないでしょう」とケンカを止めに入りました。こうしたケースは、実際によくあることだと思います。

このように、子どもが不登校になると、一般的にはお母さんのほうが子どもと距離が近いですから、お母さんが子どもと日常的な対応をすることが多いと思います。そして、ある程度、状況が停滞したり、せっぱつまってきたときに、お母さんがお父さんに「何か言ってやってください」と頼んだりすることがあります。
これと似た実際にあったケースですが、お母さんに頼まれたお父さんが重い腰を上げて、「学校に行くのは、お父さんやお母さんのためではなく、おまえ自身のためなんだぞ。どうするんだよ、今どき高校も卒業もしないで、どこの会社が雇ってくれると思っているんだ!」と言ったそうです。すると、高校2年の息子がお父さんに向かって、「おまえが俺をこんなにしたんじゃないか!」と怒鳴り返した。そうしたら、ハラハラしながら二人のやりとりを聞いていたお母さんが、息子の言葉に、ついうなずいてしまった(笑)。
そのとき、お母さんは、「ああ、確かにそういう面がある。この子をこうしてしまったのは、お父さんが自分のことは差し置いて、人のことばかり責め立てるからだ。私に対してもそうだ」と思い、息子が自分の復讐をしてくれたような気がして、思わずうなずいてしまったのだそうです。

こうした状態を私たちカウンセラーは、「問題と解決のあいだの悪循環」とよびます。つまり、進学が間近なのに勉強をしないから、お母さんは必死になって「学校に行きなさい」と言い、お父さんにも頼んで学校に行くように説得してもらおうとする。ところが、お父さんの言い方や口調がカンにさわった息子とケンカになり、あげく、お母さんは子どもの肩をもち、子どもがお父さんに反論したことに思わずうなずく結果になってしまう。問題を解決しようとしてはたらきかけたことが、かえって悪い結果をまねいてしまっているわけです。

◆ポイントは両親が同じ方向を向いて対処すること

このケースでは、私は、息子さんがお父さんに反論したとき、お母さんにうなずかないようにお願いしました。つまり、せっかくお父さんが重い腰を上げて、息子さんを説得してくれたんだから、子どもの肩をもつのではなく、実験だと思って一度、お父さんの肩をもってみませんかと、お母さんに提案してみたのです。

実は、このお母さんは、今まで一度も子どもの前でお父さんの肩をもったことがなく、どちらかというとお父さんを否定するメッセージのほうが多かったようです。これは、一般の家庭でもよくある構図ではないでしょうか。
普段なら、こうした構図でも問題ないと思いますが、何か重要な局面に立たされたり、決定的な場面では、お母さんが子ども側の肩をもつとうまくいかないことが多いのです。こういう決定的な場面は、家族のライフサイクルのなかで7?8回はあると思います。そういうときに、両親が共通の考え方をもって子どもの問題に向き合うことが大切です。

さて、お父さんの肩をもつようにと、お母さんにお願いしたあと、親子そろってのカウンセリングの際にも、お父さんと息子さんは衝突しそうになりました。
ところが、「おまえの子じゃないか!」と息子さんがお父さんに言ったとき、いつもならお父さんを制止するお母さんが、初めて息子のほうを向いて、「お父さんがこんなにまでして、子どもに手を振り上げそうになる気持ちがわからないの!」と息子を叱ったのです。そのとき、お母さんは「思わず涙が出た」と言っていました。結局、このことがきっかけになって、息子さんは定時制高校に転入して卒業。その後、大学に入学しました。

このケースで大事なことは、重要な局面を迎えたときに、両親が同じ方向を向いて子どもの問題に対処するということであり、私はこれを「両親連合」とよんでいます。

◆停滞した状況を動かす「両親連合」の力

ここでもうひとつ、わかりやすい例をお話ししましょう。

3~4歳の子どもが、両親と一緒にデパートに出かけることになりました。出かける前に両親は「欲しいものは誕生日に買ってあげるから、今日は何も買ってあげませんよ」と、子どもと約束をしました。
ところが、子どもはおもちゃ売り場に行ったとたん、「あれ買って~」とだだをこねはじめました。当然、お母さんは、「ダメ! ちゃんと約束したじゃない!」と叱りましたが、言うことを聞かずに「わーん」と泣き出して、通路に寝っ転がりました。
まわりの人たちはジロジロ見るし、おもちゃ売り場の店員さんも、買ってもらいたいような顔をしています。困ったお母さんは、お父さんを見て、「あなたも叱ってください」というメッセージ(視線)を送りました。すると、お父さんは「何か安いものでも買っておけよ。家で叱るから」と言いました。この場合、誰に問題があるのでしょうか。

①お父さんが悪い……多くの人がこの考え方です。つまり、小手先のことで何とかしようとするお父さんのやり方は、しつけ上、よくないという考え方です。

②お母さんが悪い……これは特にキャリア志向の女性に多い考え方です。つまり、最後はお父さんに責任を振ってしまったようで、責任転嫁がよくないという判断です。

③まわりの人が悪い……まわりの人がジロジロ見るから、よけいに子どもがおねだりする。

ここで考えてほしいのは、お父さんが「何か安いものでも買っておけよ。家で叱るから」と言ったのはいけないことなのか、という点です。自分の子どもがデパートの通路に寝っ転がって、他人に迷惑をかけている。となると、家族のリーダーとして、子どもをしつけるとか、叱るとかは後回しにしてでも、とりあえず他人に迷惑をかけないようにしようと考えるのは当然であり、少なくともお父さんとして50点はあげられると私は考えています。お母さんの目的は、しつけを貫くことですが、お父さんの言動は他人に迷惑をかけないようにするための対応ですから、決して悪くはないと思います。

ここで重要なのは、両親とも同じ方向を向いて子どもに対応することです。たとえば、お父さんの対応のように、どちらのやり方が正しいかということよりも、「両親とも同じ方向を向いて子どもに対応すること」です。お父さんのように、その場で安いものを買ってあげて、家に帰ってからしつけをするのも、お母さんのように、その場ではいっさい買わないのも、対応としてはどちらも間違いではありません。大切なのは、どんな対応方法を選択しようとも、両親とも同じ方向を向いていること。そのほうが、子どもに親の気持ちが伝わりやすいということがポイントです。

私たちは、家族支援のカウンセリングで、両親に、「できるだけ子どもさんの前で仲のいい夫婦を演じてください」とお願いします。「そんなことやっても、子どもは見抜きますから」というご夫婦もいますが、見抜かれたときがひとつのチャンスで、「おまえ、俺たち二人が芝居でもしていると思ってるのか!」と大声で怒鳴ると子どもには通じます(笑)。

不登校の子どもにとって、両親の仲がいいということは、どれだけ救いになるかわかりません。ただそれだけで、子どもがガラッと変わることがあります。今日帰ったら、さっそくお父さんに「口をアーンして」と言って何かを食べさせるとか(笑)。効果てきめんですから、だまされたと思って、ぜひ試してみてください。これが「夫婦連合」という手法で、停滞した状況を動かす力になることが多いのです。

◆仲のよい夫婦を演じると何が変わるのか

お子さんが不登校ということで、私たちのところに最初にカウンセリングに来られるのは、お母さんがほとんどです。そして、多くのお母さんが、「子どもがこんなにつらい思いをしているのに、夫は何もやってくれません」と訴えます。このように言うお母さんは、たいていお父さんに対して不信感をもっていて、面白いことに、その気持ちを子どもに話していることが多いんです。これは、家庭内の問題を解決する際には大きな損失になります。

「韓国の家族を考える」というテーマで家族支援のシンポジウムが開催されたことがあります。韓国は、経済や文化の面で日本を後追いしている状況ですが、日本と同じように家族のなかで父親の権威が弱くなる傾向にあります。ただし、韓国には儒教の影響があるせいか、母親が父親を立てる風習が残っています。ここが日本との大きな違いです。

そこで、今日のテーマ「この時期、動き出せない子どもへの対応」に引きつけて、みなさんに提案があります。この時期、ご自分のパートナーを一生懸命ほめてみてください。
たとえば、子どもに向かって、「お父さんは、あなたのことに無関心のように見えるかもしれないけど、お父さんなりに心配して、じっと見守ってくれているんだよ」などと言ってみる。そういうことを子どもに伝えるだけで、状況が変わることがあります。

この手法は、ふだん仲の悪い夫婦であればあるほど効果は大きい。だから、現在、仲の悪い夫婦でよかったかもしれませんね(笑)。
そうやって夫婦仲のよさをアピールしながら、一方で、子どもが小さい頃の話や、病気をして熱が出たときにすごく心配したというような話をするのもいい方法です。

そして、いよいよ進路選択の時期になってくると、子どもは進路について無関心のように見えますが、よく見るとソワソワしはじめたりするものです。そうした動きが見え出したら、夫婦仲がいいことを示しながら、ご両親の進路に関する希望は伝えてもいいと思います。ただし、「意見」ではなく、お父さんとお母さんは、こう思っているよというニュアンスで伝えたほうがいいでしょう。

◆不登校にとらわれすぎると、動き出すきざしを見逃す

私の経験では、この時期にまったく動きのない子どもはいないと思います。
たとえば、教科書を開いたり、急に家庭教師をつけてほしいと言ったり、友だちの動きを気にしたり…。あるいは、こうしたプラスの方向ではなくても、勉強や進路に関する話題を意図的に避けるなどの反応を示す子どももいます。それはマイナス方向ではあるけれど、ひとつの動きを見せているわけです。

しかし、ご両親は「不登校」という現象ばかりに気をとられて、子どもが動きはじめていることについて、まったく気づかないということが少なくありません。

実際に子どもが動き始めたとき、私たちは、その子にこうアドバイスすることがあります。「初めて再登校するときは、誰にも言わずに、気づかれないように、一人でそっと行きなさい」。これは、かなり効果があります。なぜなら、動けるようになって、明日から再登校となると、家中が期待して緊張状態になり、夜中ずっと眠れず、朝方に寝てしまって、結局、行けなくなったということがままあるからです。

あるケースでは、毎朝、起こしに行っていたお父さんの代わりに、おじいちゃんが起こしに行ったときだけ学校に行った子どもがいました。なぜかはわかりませんが、その子なりに何らかの理由があったのでしょう。それが、大きな解決の手がかりになったことがあります。

また、あるひきこもりの子は、他県の大学に行っている兄が用事で家に戻ってきたときだけ、ひきこもりの状態がなくなりました。親はその子の部屋に絶対に入れないのに、お兄さんは遠慮なしに入っていけたのです。このことがわかって、じゃあお兄さんを入れて、話し合いができないかという、次の一手が浮かび上がってきました。 

このように、よ~く目をこらして見てみると、停滞しているように見える状況のなかにも、確かな動きのきざしが見えるものです。それがなぜ、そうなるのかを考えてみると、新しい対応のあり方が見えてくると思います。

講演風景
セミナーの冒頭で行われた登進研劇場(寸劇)

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