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登進研バックアップセミナー63・第三部・講演内容

発達障害と不登校

~何でつまずき、何で困っているかを理解する~

佐藤有里

講師:佐藤有里(横浜市東部地域療育センター診療部 臨床心理士)

脳の機能のちがいから起こる「発達障害」

 「発達障害」という言葉を初めて聞いた方や、その言葉は聞いたことがあるけれど、よくわからないという方も多いと思いますので、まず、発達障害について基本的なことをお話ししたいと思います。
発達障害を医学的な診断名に基づいて大きく分けると、以下の4つに分類されます。

発達障害の分類 ①精神発達遅滞 いわゆる知的障害
②ADHD 注意欠陥多動性障害、あるいは注意欠陥多動性症候群
③PDD 広汎性発達障害
(自閉症、高機能自閉症、アスペルガー症候群あるいは アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害なども含まれる)
④LD 学習障害

③のPDD(広汎性発達障害)には、上の表のようにさまざまなものが含まれますが、ひと言でいうと、自閉症の仲間のようなものと考えていただければいいかなと思います。
また、②ADHDと③PDDには、精神発達遅滞(知的な遅れ)を伴うものと伴わないものがあります。

これらの障害は、いずれも親のしつけや育て方の問題とはまったく関係ありません。脳のはたらき方やはたらく部位が一般の人とは異なっているために起こる障害であり、あくまでも脳の機能の問題です。
たとえば、PDDの子どもたちは、私たちが人の顔を見て「お隣の○○さんだ」と見分けたり、表情を読んだりするときに使っている脳の部分とは違った部分を使って、人の顔を認知していることが、最近わかってきました。つまり、人の顔を見るということひとつとっても、一般の人とは違う脳のはたらき方をしているのです。

ですから、同じ状況におかれて同じ物を見ても、物の見方や感じ方、とらえ方が違っていて、情報処理のしかたも違うんだということを、まず認識しないと、発達障害の子どもたちを理解するのはむずかしいと思います。

努力ではどうにもならないハンディがあることを理解する

たとえば、ADHDの子どもは、落ち着きなく動きまわったり、注意力が散漫で、人の話をよく聞かない、忘れ物が多いなど、さまざまな特徴的な症状があります。そのため、不真面目だとか、いいかげんな子と思われがちですが、実は本人は、授業中は静かにしよう、忘れ物もしないようにしよう、先生の話をよく聞かなくちゃ……と思っているのです。
でも、思っていてもできない。本人の努力ではどうにもならない。だから、彼らをよく理解して手助けしてくれるサポーターが必要なのです。

たとえば、足の不自由な人は、杖をついたり、車椅子を使います。視力が弱い人は、めがねやコンタクトレンズを使います。足や目が悪いのは、本人の努力ではどうにもならないハンディキャップであり、だから、杖や車椅子、めがねなどを利用して不自由さを補っているのです。

発達障害の子どもたちもこれと同じで、努力ではどうにもならないハンディをかかえています。ただ、彼らの障害は脳のなかにあって、足や目が悪い人のように誰が見てもすぐわかる障害ではないので、まわりの人に理解してもらえないケースが多いのです。
彼らは、「やる気がない」「不真面目だ」「さぼっている」と思われたり、「やればできるんだからやりなさい」「努力が足りない」と責められたりするケースが少なくありません。でも、本人にはどうしようもないことなんです。

たとえば、忘れ物の多いADHDの子どもに対して、「忘れ物をしないように、ちゃんとチェックしなさい」とか「頑張りなさい」と言うことは、目の見えない人に「よく見ろ!」と言ったり、足の不自由な人に「もっと早く走れ」と言うのと同じです。
発達障害の子どもに「とにかく頑張れ」「やる気を出せ」という励まし方をすることは、ただ無理な要求をつきつけているだけだということを理解していただきたいと思います。

発達障害を考えるときに必要な3つの観点

発達障害の子どもたちについて、以下の3つの観点から見ていくと、どんなことで困っているか、どんなサポートをしてあげればいいかがわかってきます。

発達障害の子どもをみるときの3つの観点 ①社会性の観点(人との関わり)
②コミュニケーションの観点
③想像力(イマジネーション)の観点

この3つの観点は、自閉症の診断の際の基準となるものです。なぜ、ここで自閉症の診断基準をあげたかというと、この3つの診断基準で子どもを見ていくと、子どもを追いつめる可能性がいちばん少ないからです。

たとえば、ADHDと診断された場合、ADHDだけの観点から子どもを見ていこうとすると、ADHDの診断基準である、①多動性(動きが多い)、②衝動性(思ったらすぐ行動してしまう)、③不注意(注意力が散漫)という観点から見ることになりますが、このなかには、「対人関係」についての基準が入っていません。

しかし、実際にADHDの子どもたちを見ていると、友だち関係がうまくいかないというケースが非常に多くみられます。また、人とやりとりをするのが苦手な子もたくさんいます。ですから、対人関係の観点からも子どもを見ていかないと、対人関係で困っている子どもへのサポートが抜け落ちてしまう可能性があるのです。

子どもの現状を把握し、彼らが必要としているサポートを提供してあげるためにも、①社会性、②コミュニケーション、③想像力、の3つの観点から、子どもたちを見てあげてほしいなと思います。
ここからは、これら3つの観点からみた発達障害の子どもたちの特徴について、具体的に説明していきたいと思います。

①社会性の観点(人との関わり)

発達障害の子どもがとる行動に対して、よく「常識がない」という言い方をされることがあります。また、自分の興味のないことにはまったく関心を示さず、クラスの話し合いにも参加しないで帰ってしまったりすることがあります。
あるいは、場にそぐわない行動をしたり、礼儀しらずの態度をとったりするので、「親のしつけが悪いから……」などと言われてしまうこともあります。
場にそぐわない行動や礼儀しらずの態度は、わざとしているわけではありません。その場でどういうふるまいをすべきなのか、目上の人にどういう態度で接するべきなのかがわからないために、そうなってしまうのです。

そのほか、感情表現のタイミングがズレてしまうこともよくあります。みんなが笑っているところではニコリともせず、みんながなんとも思わないところで大笑いしたり、笑いのツボがズレている感じのすることがあります。

②コミュニケーションの観点

アスペルガー症候群のお子さんには、大人顔負けのむずかしい言葉をたくさん知っているのに、そのわりに人と会話のやりとりができなかったり、人の話の内容を理解していないケースがよくみられます。
また、自分の興味のあることだけ一方的にしゃべりまくったり、自分にしかわからないような言葉づかいをする子もいます。

慣用表現が理解できない場合もあります。小学校3年くらいの子に、担任の先生が寄り道しないでという意味で、「まっすぐ帰りなさいね」と言ったら、「まっすぐなんて帰れないよー!」とパニックになったことがあります。その子は言葉どおり生真面目に受けとって、家までまっすぐ(道を曲がったりせずに)帰れと言われたと思い込んでしまったのです。
こういう子には、まず誤解をまねくような慣用表現をできるだけ使わないこと、そして、もし、「まっすぐ帰りなさいね」などと口にしてしまったら、「これは寄り道をしないで家に帰りなさいという意味なんだよ」と説明してあげることが大切です。その後、担任の先生とお母さんがこの点に気をつけるようにしたところ、この子のパニックは減ってきました。

③想像力(イマジネーション)の観点

自分の好きなことには寝食を忘れて熱中したり、興味のあることなら何時間でも平気でやっているけれど、それ以外のことはまったくやる気にならない……というように、興味のあるなしで行動にムラが出てくることがよくあります。

柔軟性に乏しいのも特徴のひとつです。これは行動面でも思考の面でもみられますが、いつもとちょっとパターンが違ったりすると調子がくるって、パニックになったり、ひどく機嫌が悪くなったりすることがあります。たとえば、近所のスーパーに行くのに、いつもと違う道を行こうとすると、パニックになって「家に帰る!」と泣き叫んだりする子もいます。
また、何かを思い込むと、そこから頭を切り替えることがなかなかできなかったり、発想の転換が苦手なところがあります。
規則や決まりごと、約束などは非常にきちょうめんに守りますが、きちょうめんすぎて例外を認めることができなかったり、ちょっとしたミスも許せないので、自分で自分を追い込んでしまう場合があります。人からは「完璧主義」と評されることも多いようです。

これら想像力の観点からみた特徴は、裏返せば長所にもなりうる特徴です。
興味のあることにずっと集中していられるエネルギーはすごいものがありますし、思考や行動に柔軟性が乏しい点も、逆にいえば、いつもと同じパターンを保ちさえすれば、力を発揮できるし、安心して過ごせるという強みでもあります。ここは見逃せないポイントです。

決まりを忠実に守るのも、もちろん長所です。発達障害の子どもは根がまじめな子が多く、ウソをつくことを知らない子もいます。はたからはウソをついているように見えても、本人にはウソをつこうとか、相手をだまそうという気は全然ないことがほとんどです。ウソをついたとしても、たとえば先生から怒られて、どうしたらいいかわからないので、その場しのぎで思いついたことを言ってしまったとか、そんな感じのウソが多いようです。

その他の特徴

そのほか発達障害の子どもたちのわかりやすい特徴として、以下のものがあげられます。

・ 一度に複数のことを処理するのが苦手
たとえば、学校で先生が黒板に書いたことをノートに書き写すだけでも、発達障害の子どもたちにとっては大仕事です。つまり、①先生が黒板に書いたものを目で見て、②それをノートに書き写しながら、③先生の話を聞く、という3つのことを同時にやらなければならないわけで、これがどうしてもできないという子がいます。 このことは、PDD(広汎性発達障害)の子どもはもちろん、ADHD(注意欠陥多動性障害、注意欠陥多動性症候群)やLD(学習障害)の子どもにもみられる特徴のひとつです。

・ ものごとの段取りを考えるのが苦手
たとえば、中学生くらいになっても、朝起きて学校に行くまでの準備や段取りができない子がいます。はたからみると、ただグズグズしているように見えるのですが、本人の様子をよく見たり、話を聞いてみると、朝起きたら、着替え、洗顔、歯みがきなどをしなければいけないのはわかっているけれど、どの順番でやればいいのかわからなくて、迷っているうちに時間がたってしまうということのようです。

あるいは、歯みがきの途中でトイレに行きたくなり、トイレに行っているうちに歯をみがくのを忘れてしまうという子や、朝食をとっているときに面白いテレビ番組をやっていると、そっちに気をとられて朝食のことを忘れてしまうという子もいます。
 つまり、2つのことを同時にできないという、この子たちの典型のような行動です。

そんなとき、お母さんから「テレビなんか見てないで、早くごはんをすませなさい!」と怒られたりするわけですが、子どもにしてみれば、毎朝、同じことでガミガミ言われているからうんざりします。でも、お母さんのほうだって、毎朝同じことでガミガミ言わなければならないからイライラします。そんなこんなで、親子関係がどんどん悪化することも少なくありません。

そういうとき、いちばんいいのは、食事中はテレビをつけないようにすることです。こういう行動は、本人の努力ではどうにもならない部分があるわけですから、子どもに「直しなさい」というよりも、食事に集中できるように環境のほうを調整してあげるといいでしょう。

テレビに夢中になって時間がなくなったら、大急ぎで食事をすませ(あるいは食事を途中でやめて)、大急ぎで着替えて学校に行けばいいじゃないかと思うのですが、「大急ぎ」(あるいは食事をやめる)というようなイレギュラーな行動は、この子たちにとって混乱を起こすモトになります。いつものペース、いつものパターンが崩されると、どうしたらいいかわからなくなってパニックになりかねません。

このように日常の場面をじっくり細かく見ていくと、その子の言動には、その子の認知特性や行動特性がからんでいることが非常に多いことがわかります。そうした特性を頭に入れながら対応を考えていくと、より具体的なサポートのしかたが見えてくると思います。

・抽象的な説明が苦手
発達障害の子どもたちは、「ちょっと待ってね」とか「もう少し頑張りましょう」といった漠然とした表現が苦手です。時間や程度について具体的な目安がないために、理解できずに不安になる場合も少なくありません。
とくに幼稚園や小学校低学年の子どもに、こうした傾向が強く、「ちょっとって何秒? 何分?」と聞いてくる子もいます。そんなときは、「あと2~3分待ってね」というように、具体的な時間を言ってあげるようにしましょう。

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